井戸は車にて綱の長さ十二尋、勝手は北向きにて師走の空のから風ひゆう/\と吹ぬきの寒さ、おゝ堪えがたと竈の前に火なぶりの一分は一時にのびて、割木ほどの事も大臺にして叱りとばさるゝ婢女(失礼!)の身つらや、・・・
毎年、大晦日に思い出すのは、樋口一葉『大つごもり』なのである。DVD化された今井正監督の一葉三部作の一つ「大つごもり」を観てから、ずっとそう。
http://nihon.eigajiten.com/nigorie.htm
忠実に時代背景を再現し、明治時代における資産家とその奉公人、やり手の後妻、前妻の子である跡継ぎ長男ドラ息子が綾なすこの作品が病みつきとなった。
資産家山村家の奉公人、お峰(久我美子)は年末を前にお暇をもらい、伯父の家へ。そこでは、病人の伯父、叔母、そしてまだ幼い息子が赤貧洗うが如しの生活を送っている。
当然、大晦日に返さなければならない借金があり、返す当ても無い。年を越すには、利子だけでも返済しなくては。
そこで、伯父と叔母は、心苦しく思いながらも、山村家に奉公するお峰に、何とか2円を工面してもらえないかと頼む。
泣かせるのは、もちろん借金の返済が本旨だが、正月に幼い息子がせめて餅の一切れも食べられるようにと金を無心するのであった。
お峰は、快諾し、さっそく、山村家の後妻(長岡輝子)に借金を申し込む。色好い返事をもらったお峰は喜ぶ。
ところが、いよいよ大晦日という日に、後妻は、そんな話は合点がいかないね、と、借金の話を反故にする。長岡輝子のふてぶてしい演技がいい。
困ったお峰。そこへ、ドラ息子の石之助(仲谷昇)が帰宅(本人は「帰宅」ではなく「お出掛け」だという)する。
「おい、あの女中(失礼!)、何ていったっけ?もうやめたのか?ごついあいつがねぇ。俺がガキの頃はそんなこったぁ~なかった」
後妻になってから人使いが荒い。石之助は、お峰に酒の用意をさせ、後妻が帰るのを待つ。
お峰は、まだ金を工面することができず、そのうちに伯父の息子が山村家へ催促に来た。借金取りに追い立てられているのだろう。
お峰は、決死の思いで、石之助が寝ている部屋の引き出しから2円を盗み、待っている息子に渡す。一緒に来ていた叔母が、悪いね、ありがとね、と喜び、急いで帰宅する。
やがて、後妻も太公望の父親も帰ってきて、石之助が泥酔しているのを発見。
後妻は石之助を起こし「お歳暮に」と20円を渡す。「お歳暮とは洒落た文句だ」と笑いながら受け取る。
「では、これから帰る」と、石之助は山村家を去る。
後、後妻は、大晦日の勘定をするため、お峰が2円を失敬した引き出しの部屋にやって来た。
盗みが発覚すれば、お峰は自害する覚悟である。「あの」と声を掛けるより早く、後妻は「まあぁ~!」と声を張り上げた。
引き出しには、石之助の字で「ここの金も拝借」と書いた紙が。
父親と後妻は、何てドラ息子だと呆れ返る。
こうして、お峰は、不幸を逃れた。
これだけの話であるが、仲谷昇演じる石之助がかっこいい。泥酔の振りをして、実は、お峰が引き出しから2円を盗み取るのを見ていたのであろう。
だから、その引き出しの金も「拝借」したに違いない。また、この石之助、ただ飲んで散財しては実家で金を無心していたのではないだろうと思う。
恐らく、借金で苦しんでいる貧乏人の証文を買い取ったりして大金が無くなるのだろう。当時の20円を、飲むくらいで使い切ることは不可能だ。
博打で負けたという顔もしていない。
この辺、小説だけを読んでいては分からないところである。
本日、大晦日、どこにも出ないと宣言していたが、背中に激しい痛み。首も腰もこっている。
そこで、マッサージへ行き、帰りには、床屋に寄った。床屋では、頭皮マッサージもしてもらい、頭からつま先まで揉み解してもらったのであった。
今年はお付き合いありがとうございました。普段、コメントもできないのですが、今日は、皆々様にお礼のコメントをさせていただきました。
来年が、みなさんにとって良い年でありますように。
コメント
良いお年をお迎え下さい。来年もよろしくお願いします。
明けましておめでとうございます。
真摯な論客loving-c.さんと今年も語り合えれば
幸いです。