道民は寒さに弱いのであてにならないが、今日も確かに寒い。

風邪は快方に向かっているのでインフルではなかったようだ。油断をしてはいけないが。

昨日、私はぎりぎりまで迷っていた。鼻水だけではなくて頻繁にくしゃみまでするようになったからだ。

生徒宅の手前まできて、やはり電話をして今日は休みますと言おう!と決心したものの、踏ん切りがつかず、ドアを開けて直接言おうと思ったりしたが、ドアを開けるとそんなことを言えなくなり、通常通り授業をした。

入るとすぐに父親から「うちの娘がインフルエンザに罹りまして。どうぞマスクを使ってください」と。生徒は時折ゴホゴホと咳をする。

なんだ、俺は心配する必要なんかなかったのだ!と。それよりインフルに罹ったら休めよ、と。

今のところ風邪は小康状態で、生徒にインフルをうつされた兆候はない。ひどい商売だ。

前から書いているが、来年の3月には転職活動をすることにした。契約が2年残っている生徒さんは引き続き指導する。さて、うまく行くことやら。

それはさて置き、トラウマである。

パーティーで出会った時、私は彼女の洗練された美しさと物腰にすっかり夢中となった。

彼女はCA(キャビンアテンダント)、いや、エアアテンダントか、つまり一昔はスチュワーデスと呼ばれていた職業の人だった。

私は帰り際、電話番号を聞き(当時は携帯もスマホもなかったので固定電話である)、順調に交際は進んだ。

北欧の航空会社(って一つしかないよな)に勤務していたので、スウェーデンのことなら何でも知っていた。

一緒に食事もした。北欧に美味いものはないと嘆いていたら、北欧レストランでグラバール・ラックスという鮭の料理を紹介してくれた。これが絶品。

スウェーデンの料理としては、ヤンソンの誘惑というジャガイモ料理くらいしか知らなかった私には嬉しい発見だった。

料理の話はどうでもよいとして、彼女は1年の休暇をとり、スウェーデン語を学んでスウェーデン語検定というのを受けるために同じ町へ来ていた。

スウェーデンで大学院の博士課程くらいで学ぶには、サバイバル程度のスウェーデン語の検定に受かることが暗黙の了解で、私の隣の部屋に住んでいたイラン人は3ヶ月で合格していた。

彼女が住んでいたのは4部屋もあるアパートメントだったが、孤独だったのだろう。しばしば電話をかけてきてデートを重ねた。日本人が少ないという事情も二人を近づけた。

友人の間でも彼女との交際は知らない人がいない状態になっており、彼らのパーティーへ共に出掛けることも多かった。

ある日、彼女は、明日午前2時まで起きていて欲しい、必ずあなたの部屋へ来るから、と言った。

ついにその時が来たかと私は小躍りした。もう結ばれてもおかしくない時期だと一人合点して。

次の日、私は夜中の2時30分まで眠りもせず彼女を待った。しかし彼女は来ない。

なんだ気紛れか。日本製のコンドームを3枚もポケットに忍ばせていたのに。そう思って、部屋の明かりは消さずにパジャマ姿となりベッドに横たわった。

すると間もなく2人の男を従えた彼女がドアをノックした。

私のパジャマ姿を見て彼女は相当落胆したようだった。どうして着くまで待っていてくれなかったの?と私を責めるように言った。

いや、もう3時近くだし、もう来ないかと思った、と返事すると、2人の男を帰らせて部屋の中に入ってきた。

私は慌てて着替えたが、何それ?私の前でよく着替えなんてできるわね!いやらしい!と彼女は声を荒げる。

私がそのために来るとでも思っていたみたいね!帰る!

はあ、じゃあ、送っていくよと、私は馬鹿みたいに彼女のアパートまで一緒にのこのこついていったのだ。

リュックに何か入っているようだ。何を持っているの?と訊けば、トイレ用のブラシだった。

私たち華やかな仕事だと思われいるけど、お客さんが用を足したトイレをゴシゴシ洗ったりもするのよ。ありがたい仕事だと思ってるけどね。

しばらくすると彼女のアパートメントに着いた。中へ入れと言う。お茶でもね、と。

私は一人合点して、何だ、やっぱりそういうつもりだったんだ、と色めきたった。男は単純である。彼女とは、もうそういう仲になるしか考えられなかった。

彼女はソファに横たわり、足を組み左手の人差し指で髪の毛をくるくると巻き、ねぇ、大体何を考えているのか分かるんだよ。でも、私だって若くはないんだから、もうそういう遊びはしないの、と。

今度付き合う人がいたら、その人とは結婚するつもり。残念だったわね。今、タクシーを呼ぶから帰って。

はぁ?何だよ、さんざん期待させておいて!と心の中で呟く。

私は1人で朝の4時ころ自分の学生アパートへ帰った。何たる侘しさ!

しばらく考えた後、彼女に電話をし、わかったよ、もし俺でいいなら結婚も考えるよ、と伝えた。

飲んでるね。酒の勢いでそんなこと言っているの?・・・私そんな女じゃないし、listerの将来を邪魔したくない。教えるけど私41歳なの。

当時、私は28歳。13歳年上だった。しばらく黙った。飲んではいなかった。

私が年上なんでびっくりした?だから黙っているの?

い、いや(実はその通りだった)、そんな謙譲の美徳はやめて欲しいね。年齢なんて問題にならない。付き合おう!

謙譲の美徳じゃないの。listerはそんなタイプじゃないの。分かって。じゃ。

俺は日曜日の一日、振られた傷心でふてくされていた。じゃあ、電話してくるなよ、夜中に俺の部屋に来るなんて言うなよ・・・

彼女、見かけも話の内容から言っても、そんな年齢には到底思えなかった。

化粧はほとんどしていなかったが、それでも同じ年齢か、せいぜい2、3歳年上にしか思えなかった。

友人に訊いても、口をそろえて信じられないと言った。

振られたか、俺もお仕舞いだな。あの日、午前3時まで起きていれば何か変わったのだろうか?

告白するのなら電話じゃなくて対面だよな、だから振られるんだ、などと考え、私は悶々としていた。

しかし、それは終わりではなく、新たなる始まりの序章であった。

私はその後、彼女の毒牙に引っかかり、右往左往させられるはめになったのだ。13歳年上。盛りのついた28歳の男など簡単に操縦できたのだ。

私は完全に恋に落ちており、彼女は小指一本で私に火をつけ、そして、いつも冷酷にその私を消火した。

彼女から絵葉書が届いたのは3日くらい後だった。

この前は送ってくれてどうも。私が13歳年上なので諦めた?そんな簡単な気持ちだったの?断れたらしゅんとなって電話もしてこないんだ?それでも男?

アパートメントは1キロくらいしか離れていないのに絵葉書か?私は判断に戸惑った。

しかし彼女への思いは断ち切れなかった。その夜、彼女に電話した。

彼女は先日のことなどすっかり忘れたかのようだ。

ああ、絵葉書見た?あの写真は私が撮ったの。スウェーデン人の女の子なんだけど、顎が長くて、隠すために兎を抱かせたのよ。うまく撮れているでしょ。写真が趣味なんだよ。

そうね、今度、私のアパートでパーティーしようか?手伝ってくれるわよね?カレーとお寿司なんてどう?28日ならまだ2週間あるし、それでいい?

あ、その日、他のパーティーに呼ばれているから・・・

じゃ、28日ね。ガチャ・・・

こんなことは日常茶飯事で、今から考えればどうでもいいことだった。あの残酷な結末が待っていようとは予測もしていなかったのだから。

それは彼女自身、まだ知らないことだった。

(つづく)

今日は2人。








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