風邪はいよいよ咳が出るようになった。喘息の常備薬を使い何とか抑える。

さて、人間、他人に話せば、いや、書けば救われる苦難もある。今日は昨日の続きを書きたい。


電話が鳴った。彼女からの電話であることは明らかだった。出るまで何度もベルを鳴らす。居るのは分かっているのよと言わんばかりに。

今日、パーティーの打ち合わせをしよう。自転車で来てね。

え、何時? 

ガチャ

私は彼女が確実に帰宅している7時頃をめがけて彼女宅へ向かった。自転車だと10分もあれば十分だった。

ピンポ~ン

lister?入って。

彼女はレオタード姿だった。どこにも無駄がない見事なプロポーション。僅かに膨らんだバストは美乳だ。それにプリプリとしたお尻。彼女は毎日プールで泳いでいた。しかもバタフライだ。

私は惚れ直した。やっぱり彼女でなければ駄目だ。

彼女は少し酔って上気しているようだった。部屋に入るや否や、ビールをグラスに注ぎ、私にすすめた。

遅いからお先にいただいていたよ。これ、冷蔵庫で冷やしたんじゃないの。いつもこうやってね、窓の外に置いておくとちょうどいい温度になるんだ。

自転車を飛ばしてきた私は一気に飲み干した。北欧の晩秋は寒く、一方で体は火照っていた。

窓の方を見て、彼女は、雪が降ってきたわね、もう冬か~、と。

え、冗談じゃない、自転車で帰れないじゃないか、どういうつもりなんだろ?

彼女は全く意に介さず、メモで埋め尽くされたノートを見てという。パーティーに必要な物、特に買い出さねばならないものの一覧表だ。

lister、買い物が必要なものは分かるでしょ。お願いね。

確かにね、私は自己中心だと言われる、B型だしね。地球は自分を中心に回っていると思っている。嫌になった?

彼女は私を応接間に誘い、いつも通り私を挑発するようにじっと見つめる。見るとベッドルームのドアは空いている。

私は少し酔っていた。自転車で帰るのは無理だし、一晩ここに泊めるつもりかな?歩いて帰るにも外は寒いし。ということは?

そんな私の期待を裏切るかのように彼女は言った。

いつまでいるの?もう遅いし帰って。

え、でも自転車だし、雪が降っているし。

知らないの?スウェーデンには自転車を運んでくれるタクシーがあるの。今呼ぶからね。

彼女はタクシー会社に電話した。

ちくしょう!何て女だ!悪魔だ!もうすぐ第1セミスターの試験が始まるのに、俺は使い走りで買い物だ!

どうしてそんな顔してるの?もうタクシーは来ているけど。そう言うと、彼女は、しっしっと言わんばかりに私をドアの方へ誘導した。

あ、領収書を忘れないようにね。

てめ~、この野郎!私はこの言葉を押し殺してタクシーへ向かった。

インスタントカレーのルーは彼女が持っていた。28日がパーティーということなら、寿司と刺身用の生魚は前日か当日にマーケットで買ってこなければならない。

アルコール類は専売所で買わなければならない。長い列に並ばねばならない。アル中を減らすため一般の店で強いアルコールは販売できないのだ。

スーパーでもアルコール度数1%のビールは売っているが、そんなもの誰も飲まないし(不肖私はこればかり飲んでいた)、パーティーで出すのは失礼とされていた。

紙コップ、紙皿、などなど、丸1日買い物で潰れる。

28日のパーティー当日、彼女は始終上機嫌で、職場仲間や語学スクールの友人などを招いて社交的に振舞った。

ビールを隠し味に使ったカレーが評判になったので、K子は悦に入っていた。

で、祭りの後。夥しい皿、ゴミ・・・そういうものが残った。

後始末は明日でいいよね?

何言っているの!今夜中に全部片付けて。じゃないと私眠れない!

またしても私は彼女の忠実な僕として扱われ、何十枚の皿や他の食器を洗い、ゴミを階下のゴミ捨て場へ運び、終わったのは2時ころ。

夜中に彼女と2人っきりになることには何か耐性のようなものが出来上がっていた。

さて、帰ろうか、という時に、彼女は、まあ、座ってと。

ご苦労様、lister。ソファの隣でドレスアップした彼女は至近距離で話し始めた。胸元が大きく開いたドレスで、最高にセクシーだった。

私ね、初めてセックスをしたのは24歳の時なんだよ。すごい奥手でしょ?好きなポジションはバックだったけど、腰を痛めてからは正常位ね。

アルゼンチンでジープを借りて走り回った後で腰が痛くなって。何をしても治らない。listerはどのポジションが好き?

・・・いきなりそんなこと訊くんだ?・・・相手によるね。

で、listerはフェラチオとかさせるんだ?私ね、絶対にしないの。

へぇ~、つまんないね。何で俺にそんなこと訊くの?(ひょっとして今度こそ・・・この懲りない期待は何なのだ?)すると、彼女は甲高い声で言った。

タクシー呼ぶわ。今夜はご苦労様!

彼女は私を1階までエスコートしてタクシーまで来ると運転手にお札を握らせた。

私は徹夜の連続で何とか試験を乗り切り、ベッドの上で死んでいた。すると電話が。この時間にかけてくるのは彼女しかいない。出るまで何回でもかけてくる。

はい、K子さん?

あのね、今晩、東北大学の教授が家にくるのよ。listerも来れるわね?一杯料理も作ったから楽しみにしてて。

え?無理だよ。急だな。俺はもうバテバテでそんなこと無理。悪いけど、今度だけは断る。

lister、本気?本当に来ないの?料理だってlisterの分まで作っているんだよ。

ダメ。今日は無理。

断るんだ へぇ~ 断るんだ。何だ、がっがり。もういい。ガチャ

私は必死だった。何とかしてK子の罠から抜け出さなければ!このままでは奴隷になってしまう!

初めてのささやかな抵抗。しかし、内心、私は怯えていたのだった。

(つづく)

今日は1人。

















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