『四畳半襖の下張り』わいせつ裁判とは何だったのか?単なる過去か?(3)
2017年1月22日 日常1973年、検察官平井令法(りょうぶ)と弁護団の対決が始まった。
平井検察官は、先ず、弁護側筆記補助者の申請に「必要性がない」と述べ、更に「弁護人席に弁護人以外の者を座らせることは違法の疑いがあり、且つ不当であるので、唯今の決定に対して異議を申し立てる」と発言。裁判長に却下される。
次に弁護団は特別弁護人の申請をするが、平井検察官は「練達な弁護人である弁護人が多数選任されており、被告人の利益保護に欠けるところはないわけであり、被告人に特別弁護人の選任の理由があるとは認められない。特別弁護人の選任は不必要と考える」と発言する。大前裁判長は、この結論を留保した。
弁護人は「わいせつ」の意味を明らかにするよう求めたが平井検察官は9月10日付釈明書で述べた通りと返答する。
同釈明書には「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺戟せしめ、かつ、普通人の性的しゅうち心を害し、善良な性的道義観念に反することをいう」と述べられている。
続いて、大前裁判長が『四畳半襖の下張り』の全文がわいせつなのか、その中の一部がわいせつなのかを問うと平井検察官は「『四畳半襖の下張り』が一つの物語となっている性質上、作品全体がわいせつ文書であるということで、全文と申し上げている趣旨です」と返答。
中村主任弁護士の同様の質問に関し平井検察官は「文書のパラグラフ乃至センテンスを各分解してまいりますと、わいせつでない部分も勿論存在する。全体を包括して、本件『四畳半襖の下張り』がわいせつであるという趣旨です」と返答する。
中村主任弁護士が、では具体的にどこがわいせつでどこがわいせつではないのかを平井検察官に明らかにさせるため『四畳半襖の下張り』の原文を読み始める。
すると平井検察官は「ただいまの弁護人の発言は、予断排除の原則上からも適当ではないと考えるので、異議を申し立てる」と述べる。大前裁判長は弁護人に注意を促す。
大前裁判長は平井検察官へ「検察官の方で、全部でないならこの部分(がわいせつ)だという特定をされたい」と述べる。
平井検察官は「すでにこの全文がわいせつであると釈明しているが、特に高いわいせつの文章部分を強いて挙げると、三0頁五行目の「女は」の部分から、三五頁一五行目までであると考える」と述べる。(『面白半分7月号』が手元にないため不明)
中村主任弁護人は、では、その他の部分を掲載してもわいせつとなるか平井検察官に問いただす。
大前裁判長は、その点を明らかにするよう平井検察官に要求する。
平井検察官は「これまで検察官が述べてきた通りであり、特に今の問題に付いては、仮定の議論にわたると考えるので、検察官としては釈明の必要がないと考える」と拒否。
中村主任弁護人は、仮定の問題ではないので返答するように平井検察官に迫る。
平井検察官は「冒頭において、全文がわいせつであると釈明しており、その釈明を撤回していないから、この文書の成立上一体となっているので、この作品全体がわいせつ文書であると申し上げているわけで、さらにお尋ねがあるので、強いてその中で高いわいせつ性の文章を指摘したわけです」と返答する。
中村主任弁護人には、『チャタレー夫人の恋人』裁判では検察官は特にわいせつな部分をあげてわいせつの論理を展開していると指摘。
平井検察官は「私は他の事件に付いて発言する必要はないと考える。したがって、ただいまの点に付いては、釈明の必要はないと考える」と返答。
中村主任弁護人は、全体としてわいせつなら、先ほど指摘した特にわいせつな部分以外でわいせつな箇所を具体的に挙げてほしいと要求。
平井検察官は「三0頁五行目から三五頁一五行目以外の部分にどういう記載があるかは、現段階においては検察官は発言を慎みたいと考えます。それ以外の点に付いては今まで釈明してきた通りです」と答える。
中村主任弁護人からの同様の質問に対し平井検察官は「全部一体としてわいせつであるという主張です」と返答。
中村主任弁護人は、であれば、高いわいせつ性を持つ部分と低いわいせつ性をもつ部分はどこで分けるのかと尋ねる。
平井検察官は「最初から、この文書全体がわいせつと申し上げている。特に露骨な性交等の状況を、露骨かつ詳細に描写した部分を摘示せよと、弁護人から求められたので、そういう部分が非常に多い部分が掲載されている部分を、頁数をもって指摘したわけで、わいせつ性の高い部分ということを申し上げたが、低いわいせつ性という概念を私は述べていない」と返答。
同様の質問に対し、平井検察官は「検察官は『四畳半襖の下張り』の作品全体をわいせつ文書であると、当初から釈明しており、弁護人は別の観点から明らかにせよといわれても、検察官としては、弁護人と同じ観点と同じ立場をとるわけにいきません」と答弁。
小谷野弁護人は、文書全体がわいせつだというなら、起訴状に全文を掲載すべきではないかと質問。
起訴状の公訴事実には「・・・『四畳半襖の下張り』との表題で、男女性交の状況などを露骨かつ詳細に描写叙述しているわいせつの文章を掲載した雑誌「面白半分七月号」を・・・販売したものである」と175条適用の根拠が述べてある。
この質問に対し平井検察官は「起訴状の記載としては、公訴事実釈明の当時に致しましたように「『四畳半襖の下張り』との表題で、男女性交の状況などを露骨かつ詳細に描写叙述しているわいせつの文章」ということで特定していると考える。したがって、このわいせつとされる文章を引用、記載すべきであるとは考えておりません」と答弁。
次の論点として起訴状の「男女性交の状況など」の「など」は一体何を指すのかというものに移る。
この点では平井検察官の答弁により、かなり具体的になった。
小谷野弁護人は「性交以外の性行為とは何か」と問う。
平井検察官は「すでに釈明した事柄に依って明らかであると考えます」と答える。
小谷野弁護人は再び性交以外の性行為とは何か明らかにせよと迫る。
平井検察官は「求釈明として「等」とは何かと、「男女性交の状況等」の「等」に付いてであったので、性交というものを除いたところの性行為、具体的にいうならば、たとえば性器に対する接吻行為(キス)というようなものを、性交以外の性行為として表現したつもりであります」と返答。
小谷野弁護人は「男性の性器に対する接吻(キス)が、性行為だというのですか」と問い詰める。
平井検察官は「そういうことは申しておりません。「等」とは何かという求釈明ですので、その「等」に対しておこたえしているわけであります」と返答。
小谷野弁護人は納得せず続ける。「性器に対する接吻は男性か女性か。誰に対するどういうものか。弁護人としては分からないのでお答えいただきたい」。
平井検察官は「検察官としては、弁護人の分からないということ自体、理解できません。釈明の必要はないと答えます」とこれを拒否。
大前裁判長は「本件文書の中で摘示するところがあれば、摘示されたらよい」と返答を促す。
平井検察官は「現段階において、この文書に付いてはまだ証拠調も済んでいない時点ですので、検察官としては、文書自体に即してお答えすることは出来ません」と答える。
大前裁判長は「検察官の方は、性交以外の性行為というのがあり、それは性器に対する接吻行為のようなものだということと、「等」の中には性器の描写も含むという釈明ですね」と問いただす。
これに対し平井検察官はただ「はい」と答えるのである。
中村主任弁護人は「性器に対する接吻等」は性交以外の性行為の一つという意味であるかどうか質問。
平井検察官は「たとえば一つの例としてという趣旨であります」と返答。
大前裁判長は、その具体例を『四畳半襖の下張り』から二、三示してはどうかと検察官に説明を求める。
平井検察官は「私の方としては、性交以外の性行為という日本語がないという趣旨の求釈明でしたので、分かっていただくために具体例として挙げたわけです。ただ先程も申し上げたように、検察官としては証拠調に入っていない段階で、この中の問題に付いて、検察官の方から内容を摘示するのは差し控えたいという意味で、先程思い付くままに申し上げたわけです」と返答。
大前裁判長は「これは引用ではなくて、態様は述べられるでないかと思います」と指摘する。
平井検察官は「「男女性交に伴うところの各種の行為」というふうに理解していただけば十分と思います」と返答。
中村主任弁護人は、それではますます概念が広がると指摘。大前裁判長も「検察官は釈明されたらどうか」と説明を迫る。
平井検察官は「具体的に釈明するということになると、先程来申し上げている証拠調の内容に入ってしまうでないかということを危惧しているわけで、証拠調の内容に入らない
程度での釈明は、非常に困難であるという理解を持っております」と拒む。
中村主任弁護人は、性交以外の性行為が文書で描かれているかいないかということは言えるはずだと迫る。
平井検察官は「私の先程の釈明は、本件の証拠物でなしに、抽象的に答えしているわけであり、「ある」とか「ない」とかいうことは、この段階では申し上げられません」と逃げる。
続いて平井検察官は「先程は「『性交以外の性行為』という日本語はない」と日本語の解釈としての求釈明があった次第です」と述べる。
大前裁判長は、このままではどうどう巡りであり、検察官は「性交以外の性行為」の描写を具体的に説明すべきだと平井検察官に迫る。
平井検察官は「いわゆる前戯、後戯の状況であり、具体的にその例を申し上げるならば、性器をいじる、あるいは性器を口に含むなどの行為であります」とついに具体的な答弁をする。
これでいわゆる「わいせつ」な行為の具体例がかなり明らかになった。
続きは明日書きます。
平井検察官は、先ず、弁護側筆記補助者の申請に「必要性がない」と述べ、更に「弁護人席に弁護人以外の者を座らせることは違法の疑いがあり、且つ不当であるので、唯今の決定に対して異議を申し立てる」と発言。裁判長に却下される。
次に弁護団は特別弁護人の申請をするが、平井検察官は「練達な弁護人である弁護人が多数選任されており、被告人の利益保護に欠けるところはないわけであり、被告人に特別弁護人の選任の理由があるとは認められない。特別弁護人の選任は不必要と考える」と発言する。大前裁判長は、この結論を留保した。
弁護人は「わいせつ」の意味を明らかにするよう求めたが平井検察官は9月10日付釈明書で述べた通りと返答する。
同釈明書には「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺戟せしめ、かつ、普通人の性的しゅうち心を害し、善良な性的道義観念に反することをいう」と述べられている。
続いて、大前裁判長が『四畳半襖の下張り』の全文がわいせつなのか、その中の一部がわいせつなのかを問うと平井検察官は「『四畳半襖の下張り』が一つの物語となっている性質上、作品全体がわいせつ文書であるということで、全文と申し上げている趣旨です」と返答。
中村主任弁護士の同様の質問に関し平井検察官は「文書のパラグラフ乃至センテンスを各分解してまいりますと、わいせつでない部分も勿論存在する。全体を包括して、本件『四畳半襖の下張り』がわいせつであるという趣旨です」と返答する。
中村主任弁護士が、では具体的にどこがわいせつでどこがわいせつではないのかを平井検察官に明らかにさせるため『四畳半襖の下張り』の原文を読み始める。
すると平井検察官は「ただいまの弁護人の発言は、予断排除の原則上からも適当ではないと考えるので、異議を申し立てる」と述べる。大前裁判長は弁護人に注意を促す。
大前裁判長は平井検察官へ「検察官の方で、全部でないならこの部分(がわいせつ)だという特定をされたい」と述べる。
平井検察官は「すでにこの全文がわいせつであると釈明しているが、特に高いわいせつの文章部分を強いて挙げると、三0頁五行目の「女は」の部分から、三五頁一五行目までであると考える」と述べる。(『面白半分7月号』が手元にないため不明)
中村主任弁護人は、では、その他の部分を掲載してもわいせつとなるか平井検察官に問いただす。
大前裁判長は、その点を明らかにするよう平井検察官に要求する。
平井検察官は「これまで検察官が述べてきた通りであり、特に今の問題に付いては、仮定の議論にわたると考えるので、検察官としては釈明の必要がないと考える」と拒否。
中村主任弁護人は、仮定の問題ではないので返答するように平井検察官に迫る。
平井検察官は「冒頭において、全文がわいせつであると釈明しており、その釈明を撤回していないから、この文書の成立上一体となっているので、この作品全体がわいせつ文書であると申し上げているわけで、さらにお尋ねがあるので、強いてその中で高いわいせつ性の文章を指摘したわけです」と返答する。
中村主任弁護人には、『チャタレー夫人の恋人』裁判では検察官は特にわいせつな部分をあげてわいせつの論理を展開していると指摘。
平井検察官は「私は他の事件に付いて発言する必要はないと考える。したがって、ただいまの点に付いては、釈明の必要はないと考える」と返答。
中村主任弁護人は、全体としてわいせつなら、先ほど指摘した特にわいせつな部分以外でわいせつな箇所を具体的に挙げてほしいと要求。
平井検察官は「三0頁五行目から三五頁一五行目以外の部分にどういう記載があるかは、現段階においては検察官は発言を慎みたいと考えます。それ以外の点に付いては今まで釈明してきた通りです」と答える。
中村主任弁護人からの同様の質問に対し平井検察官は「全部一体としてわいせつであるという主張です」と返答。
中村主任弁護人は、であれば、高いわいせつ性を持つ部分と低いわいせつ性をもつ部分はどこで分けるのかと尋ねる。
平井検察官は「最初から、この文書全体がわいせつと申し上げている。特に露骨な性交等の状況を、露骨かつ詳細に描写した部分を摘示せよと、弁護人から求められたので、そういう部分が非常に多い部分が掲載されている部分を、頁数をもって指摘したわけで、わいせつ性の高い部分ということを申し上げたが、低いわいせつ性という概念を私は述べていない」と返答。
同様の質問に対し、平井検察官は「検察官は『四畳半襖の下張り』の作品全体をわいせつ文書であると、当初から釈明しており、弁護人は別の観点から明らかにせよといわれても、検察官としては、弁護人と同じ観点と同じ立場をとるわけにいきません」と答弁。
小谷野弁護人は、文書全体がわいせつだというなら、起訴状に全文を掲載すべきではないかと質問。
起訴状の公訴事実には「・・・『四畳半襖の下張り』との表題で、男女性交の状況などを露骨かつ詳細に描写叙述しているわいせつの文章を掲載した雑誌「面白半分七月号」を・・・販売したものである」と175条適用の根拠が述べてある。
この質問に対し平井検察官は「起訴状の記載としては、公訴事実釈明の当時に致しましたように「『四畳半襖の下張り』との表題で、男女性交の状況などを露骨かつ詳細に描写叙述しているわいせつの文章」ということで特定していると考える。したがって、このわいせつとされる文章を引用、記載すべきであるとは考えておりません」と答弁。
次の論点として起訴状の「男女性交の状況など」の「など」は一体何を指すのかというものに移る。
この点では平井検察官の答弁により、かなり具体的になった。
小谷野弁護人は「性交以外の性行為とは何か」と問う。
平井検察官は「すでに釈明した事柄に依って明らかであると考えます」と答える。
小谷野弁護人は再び性交以外の性行為とは何か明らかにせよと迫る。
平井検察官は「求釈明として「等」とは何かと、「男女性交の状況等」の「等」に付いてであったので、性交というものを除いたところの性行為、具体的にいうならば、たとえば性器に対する接吻行為(キス)というようなものを、性交以外の性行為として表現したつもりであります」と返答。
小谷野弁護人は「男性の性器に対する接吻(キス)が、性行為だというのですか」と問い詰める。
平井検察官は「そういうことは申しておりません。「等」とは何かという求釈明ですので、その「等」に対しておこたえしているわけであります」と返答。
小谷野弁護人は納得せず続ける。「性器に対する接吻は男性か女性か。誰に対するどういうものか。弁護人としては分からないのでお答えいただきたい」。
平井検察官は「検察官としては、弁護人の分からないということ自体、理解できません。釈明の必要はないと答えます」とこれを拒否。
大前裁判長は「本件文書の中で摘示するところがあれば、摘示されたらよい」と返答を促す。
平井検察官は「現段階において、この文書に付いてはまだ証拠調も済んでいない時点ですので、検察官としては、文書自体に即してお答えすることは出来ません」と答える。
大前裁判長は「検察官の方は、性交以外の性行為というのがあり、それは性器に対する接吻行為のようなものだということと、「等」の中には性器の描写も含むという釈明ですね」と問いただす。
これに対し平井検察官はただ「はい」と答えるのである。
中村主任弁護人は「性器に対する接吻等」は性交以外の性行為の一つという意味であるかどうか質問。
平井検察官は「たとえば一つの例としてという趣旨であります」と返答。
大前裁判長は、その具体例を『四畳半襖の下張り』から二、三示してはどうかと検察官に説明を求める。
平井検察官は「私の方としては、性交以外の性行為という日本語がないという趣旨の求釈明でしたので、分かっていただくために具体例として挙げたわけです。ただ先程も申し上げたように、検察官としては証拠調に入っていない段階で、この中の問題に付いて、検察官の方から内容を摘示するのは差し控えたいという意味で、先程思い付くままに申し上げたわけです」と返答。
大前裁判長は「これは引用ではなくて、態様は述べられるでないかと思います」と指摘する。
平井検察官は「「男女性交に伴うところの各種の行為」というふうに理解していただけば十分と思います」と返答。
中村主任弁護人は、それではますます概念が広がると指摘。大前裁判長も「検察官は釈明されたらどうか」と説明を迫る。
平井検察官は「具体的に釈明するということになると、先程来申し上げている証拠調の内容に入ってしまうでないかということを危惧しているわけで、証拠調の内容に入らない
程度での釈明は、非常に困難であるという理解を持っております」と拒む。
中村主任弁護人は、性交以外の性行為が文書で描かれているかいないかということは言えるはずだと迫る。
平井検察官は「私の先程の釈明は、本件の証拠物でなしに、抽象的に答えしているわけであり、「ある」とか「ない」とかいうことは、この段階では申し上げられません」と逃げる。
続いて平井検察官は「先程は「『性交以外の性行為』という日本語はない」と日本語の解釈としての求釈明があった次第です」と述べる。
大前裁判長は、このままではどうどう巡りであり、検察官は「性交以外の性行為」の描写を具体的に説明すべきだと平井検察官に迫る。
平井検察官は「いわゆる前戯、後戯の状況であり、具体的にその例を申し上げるならば、性器をいじる、あるいは性器を口に含むなどの行為であります」とついに具体的な答弁をする。
これでいわゆる「わいせつ」な行為の具体例がかなり明らかになった。
続きは明日書きます。
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